遠浅の好奇心

海・湖などで、岸から遠く沖の方まで水が浅いこと。そういう所。

髪のもこもこの内側

今まで生きてきて、最近初めて知ったことがある。

 

「めっちゃ髪の毛多いっすね~」

 

美容室で言われた。

私は髪の毛の量が多いらしい。

 

初めて知った。

今までだって何度も髪を切っていたけど、どの美容師さんも私に「髪の量が多い」と言ったことはなかった。

 

「いや言われたことないですけど」

「いや多いっすよ」

 

今まで行っていた美容室が移転になってしまったから、紹介された別の美容室に行った。そこの美容師さんに初めて切ってもらったとき、まさかの「宣告」を受けたのだった。

だから髪をかなり切ったのに「なんか浮いてるよ」「ズラっぽいよ」と言われたのか。知らなかった。

 

髪を切ってから2か月くらいすると頭がもこもことでかくなるのは確かだ。でもみんなそんなもんだと思っていたのに。

それは私の髪の量が多いせいだったのか。

 

アイロンなんてうまく巻けないものだと思っていたのに。

それは私の髪の量が多いせいだったのか。

 

パーマなんてすぐ取れるしかかりにくいものだと思っていたのに。

それは私の髪の量が多いせいだったのか。

 

なんだかいろんな事象の見方が変わってくるような気がしてきた。

それは私の髪の量が多いせいだったのか。

 

***

 

高校生の頃通っていた美容室では、おしゃべり上手の女の人に切ってもらっていた。

だがあるときその人が辞めてしまって、違う女性の美容師さんにチェンジになった。

 

その美容師さんは人見知りのようで、そんなに積極的にしゃべるタイプでもなかったし、タメ語をためらいなく使い始めるタイプの人でもなかった。でも本当はもっと話したいんだろうな、という雰囲気はあったから、こっちからいろいろ話を振ってみて、いろいろとコミュニケーションを深めていった。

するとだんだんその美容師さんも話しやすくなったようで、いろんな話をした。

 

ある日その人に髪を切ってもらいながら、意味不明な話をしたことがある。

 

美容師さん「アリの世界にもコンビニってあるのかなあ」

わたし「え、どういうことですか」

美「アリの巣って断面図で見るといっぱい部屋があってつながってるみたいになってるでしょ?」

わ「そうですね、なんか図鑑とかにあるあの感じ」

美「うん、で、その部屋みたいなとこもお店みたいになってるのかなって」

わ「あー、そこがそれぞれコンビニだったり美容室だったり家だったりみたいな」

美「そうそう、アリもコンビニみたいなとこで買い物とかするのかなーって、あたしこういうこと考えちゃうんだよね」

わ「わかります、わかります、私もよく変な妄想とかしてるんで。それでアリが買うとしたら何買うんだろうとか考えるんですよね」

美「そうなのー、友達みんな引いちゃうんだけど」

 

美容師さんってみんなおしゃべりでおしゃれで朗らかでニコニコしてる人しかいないんだと思っていたけど、こんな美容師さんもいるんだな、むしろ好きだなってそのとき思った。

 

間を持たせるためじゃなくて、本当に「ただ自分が考えたことを人に聞いてほしい」っていう会話って美容室になかなか存在しないから。そういう話をできる仲になった、その美容師さんにそう思えてもらえたんだな、というだけでけっこううれしかった記憶がある。

 

もう一回あの人に切ってほしいなぁ。

今はもうどこにいるかわからないし名前もよく覚えていないんだけれど。

友達には引かれちゃうような話を私にしてくれてありがとう。

 

 

どうして私が行く美容室は移転したり閉店したりしてしまうんだろうか。

渡り鳥のように美容室を変え続ける私。

 

人は見かけによらないし、見かけの奥を見つけるにはこちらの努力が必要なんですね。