遠浅の好奇心

海・湖などで、岸から遠く沖の方まで水が浅いこと。そういう所。

ピュリスムって何だろう?:ル・コルビュジエ展@国立西洋美術館

国立西洋美術館で「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」という展示を見てきました。

lecorbusier2019.jp

以下、HPより引用。

20世紀建築の巨匠ル・コルビュジエ(1887-1965)が設計した国立西洋美術館本館は、2016年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。開館60周年を記念して開催される本展は、若きシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエの本名)が故郷のスイスを離れ、芸術の中心地パリで「ピュリスム(純粋主義)」の運動を推進した時代に焦点をあて、絵画、建築、都市計画、出版、インテリア・デザインなど多方面にわたった約10年間の活動を振り返ります。

 HPのCM動画にキャッチーな作品がまとまっているのでこちらも御覧ください。

youtu.be

 

コルビュジェは「有名な建築家らしい」ということしか知りませんでした。国立西洋美術館ユネスコ世界文化遺産に登録された2016年にニュースで報じられて、それを見て「へぇ」と思ったくらい。今回の展示は建築についてももちろんですが、それ以前の絵で表現していた時代の作品もたくさんあり、展示全体では絵の方が多いくらいでした。

 

展示は4部構成。

Ⅰ ピュリスムの誕生

Ⅱ キュビスムとの対峙

Ⅲ ピュリスムの頂点と終幕

Ⅳ ピュリスム以降のル・コルビュジェ

 

国立西洋美術館の建物自体がとてもよかったので、それについては後日別記事で書きます。さっきHPを改めて見直したら設立の経緯が興味深くて、書くと長くなりそうで。

あとピュリスムキュビスムは解説を読んだけれど難しかったので割愛します。笑 展示全体の感想をつらつら書きます。

 

■入ってすぐの19世紀ホールで模型を楽しむ

19世紀ホールは本館中心にある吹き抜けのホール。コルビュジェらしい、直線が入り組んでいろんな空間を覗くことができて、不思議な構造のホールです。企画展ではおなじみの導入ビデオ、そして吹き抜けの高く広い壁にコルビュジェ建築の写真がスライドショーで流れていました。

建築模型が4つほどあって、レゴを見ているみたいで面白かった。白く小さな建物なんだけど、窓の並び方、空間のつながり方、吹き抜けがこんなとこにあるの、というようなコルビュジェの革新性が伝わります。解説を見てさらに新しさを実感する。

 

何より面白かったのは、コルビュジェが立案した「パリ改造計画」。「ヴォワザン計画」と呼ばれ、1925年に発表されたもの。自動車が普及し始め工業化が進む中で、パリの都市はどうあるべきか。コルビュジェのアイデアは画一的で見たら美しい…そうなんだけど、統一されすぎてちょっと怖い感じもしました。

大きな太い道路が一直線に進み、それを中心に四角形の土地が並ぶ。それぞれの土地の中心には十字型の高層ビルが建ち、そこがオフィスフロア。その周辺に住居となる集合住宅。その四角形のユニットがたくさん並ぶ。今のパリからは考えられない構造…。古い町並みを取り換えるくらいの気持ちだったのかしら。3Dプリンターでできた街全体の模型がありました。

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ビルがおしゃれ!十字型とか面白い。

…と思ったんですが、画一的すぎてこんな生活できないよな、とも思い。後から「ヴォワサン計画」でググったところ、批判的な記事が出てきました。

www.diplo.jp

「行動への誘い」と題する第一章で、彼はまず「世界は病んでおり」一方で「ロシアとイタリアは新たな政権を樹立している」と述べる。全体主義政権だ。そしてフランスでは「崩壊は時間の問題だ」と。「1934年2月6日パリにて(5) : 清潔さの復活」と説明書きのある一枚のバリケードの写真は、おそらくル・コルビュジエに(ファシスト)革命の初期段階を想起させたにちがいない。ソヴィエトの統制経済(6)とその当然の帰結である、上から課せられた「規律」に強い印象を受けて、彼は「プロレタリアートの消滅」を望み、「民衆の救済という大義のために土地を利用し」て「階級のない都市」を創りたいと考える。あの国の例に倣うべきだと。「ソ連の自由な土地は自由な都市計画をもたらす」。だが、私有財産の廃止は「機械文明のあらゆる仕組みの要である個人の自由の尊重」と共存しなければならない。どうやって?「現代人の家屋(と都市)、みごとに調整された機械は、今日失われた個人の自由をもたらし、一人ひとりに自由が復権するだろう」

集合住宅があんなにも画一化されるのはちょっと社会主義的だなと思ったのですが、やはりそういう思想的な影響があったようです。(ちなみにこの記事は、フランスの新聞「ル・モンド」系列の月刊紙「ル・モンド・ディプロマティーク」の翻訳記事です)

 

19世紀ホールの吹き抜けをうまく活かした展示方法で、空間の広がりを体感しながら当時の建築の新しさを感じることができました。3Dプリンターって建築においても大きな影響あるんだろうねぇ。

 

ピュリスムの絵

ピュリスムがなんだかうまく説明できないのですが、そのコーナーにあった絵は面白かったです。錯視みたいで。《多数のオブジェのある静物》は冒頭の動画にも出てきますが、重なった部分と立体と平面の境目とがわからなくなる。遠近感もわからない。どこから描いたかもわからない。

でも幾何学的な直線を引いて三角形を作って、かなり入念に配置をチェックした上で描かれている。図形的な考え方があるというのが、アートなのに数学的でユニークでした。構造への意識が伝わるように、下書きのスケッチやラフも多く展示されていました。三角形の下書きとか見れるんですよ。面白いねぇ。

図形をいじり倒して落書きしている自由帳を見ている感覚でした。子供のころ、直線引いて偶然できた図形で遊んだ気がするんだよね。

 

コルビュジェを囲む作家たち

コルビュジェと一緒に雑誌を発刊したアメデ・オザンファンの絵も多く。他にはコルビュジェが影響を受けたとされるキュビスムの作家の絵、彫刻なども。リプシッツという作家の彫刻《ギターを持つ水夫》は、「これがキュビスムなんだろうなぁ…」とぼんやり感じることができる、立体をくっつけました!感がある作品です(乱暴)。でもこんなに前衛的なのに、彫刻の正面がわかる自分に不思議を感じるんです。そりゃあ展示の向きもあるだろうけど、でこぼこしてカクカクしてるのに、このあたりが正面で、このあたりがギターかな、、というのがぎりぎりわかるんです。不思議。

当時の映像作品もあったんだけど、リピートが多用されて不思議な映像でした。立体作品と同じようなノリが映像の中にあるというか…。午後の眠い時間帯だったせいか、同じシーンを繰り返し見せられたせいか、一瞬眠気で意識が飛んだ。笑

 

コルビュジェ建築とインテリア

コルビュジェが実際に建てた建物の模型や当時の映像、写真、設計図などが展示されていました。いや、吹き抜けの作り方や光の取り込み方、螺旋階段の位置とかが絶妙で面白いのね。自分は建築はわからないけど、どこの部屋からも建物の全体を感じることができるような構造だな、と思いました。

コルビュジェは自分でインテリアも作ったそうで。実際に作った椅子が展示されていました。これがまたおしゃれで。パイプ(スチール・チューブ)を使った寝椅子はもはやセクシー。家が広かったら欲しいとさえ思った。回転椅子も現代的。書斎に欲しいね。書斎ないけどね。

 

 

長くなりましたが、建築のイメージから入って展示を見に行ったところ、建築だけでなく絵も立体もめいっぱい楽しめました。人が住む、暮らす建築をガラッと変えるというのはなかなかできない。コストもかかるし。そんな中で新たな提案をどんどんしていったコルビュジェのエネルギーを感じることができます。

アール・デコの展示を前に別の美術館で見に行ったときも思ったけど、やっぱり第一次大戦後のパリって、なんだか惹かれるものがあるねぇ!