遠浅の好奇心

海・湖などで、岸から遠く沖の方まで水が浅いこと。そういう所。

住宅街にこじんまりと、絵本に革命を起こした人の家~ちひろ美術館~

ちひろ美術館で、「ショーン・タンの世界展」を見てきました。

www.artkarte.art

 

と言いつつ、この記事は初訪問のちひろ美術館がメインです(書いてたら長くなっちゃった)。ショーンさんについては以下の記事で。

habitaso.hatenablog.com

 

 

ちひろ美術館は初訪問でした。「いわさきちひろ」といえば国語の教科書、名前も画風も知っています。でも美術館があるとは知らなかった。絵本に特化した美術館というのも珍しい。東京と安曇野の二か所にあるとのこと。東京は荻窪の少し北にある下石神井いわさきちひろが暮らしていた家の跡に建てたそうです。安曇野の方は、いわさきちひろの両親の移住先が安曇野だったという由来で。ちひろ美術館自体への興味もあり、行ってみることに。

 

自分は荻窪駅からバスに乗り、最寄りのバス停から歩いて行きました。電車では西武新宿線上井草駅が最寄りです。それにしても住宅街の真ん中にあるので、美術館の立地としてはユニーク。電車でもバスでもやや歩くので気を付けましょう。

 

大通り沿いに木が茂った場所があるなと思ったら、ちひろ美術館が現れます。

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建物はこじんまり。中庭がある2階建、展示室が4つ。2つはいわさきちひろに関する常設展、もう2つは企画展、という使い方。1階と2階に常設展と企画展が1つずつある。仮に「1階は常設展、2階は企画展」とくっきり分けてしまうと「どちらかしか行かない」ということもあるので、バラバラにしたのは正解だなぁと思いました。

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カフェや図書室、子供たちが絵本を読む部屋、お土産コーナーなど、ぎゅぎゅっと詰まっていました。カフェは狭いけれど、目の前に中庭の芝生とブロンズ像が見えて、狭いながらも目に優しく落ち着ける空間になっています。

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ちひろ美術館のHPでいわさきちひろの人生やプロフィールを読み直していたら、旦那さんが自殺したり、戦時中は中国に行ったり、東京では空襲に遭ったり、戦後は共産党に入ったりなど、かなり怒涛の人生…。絵本作家として働きながらその後結婚した夫を支え、家族の介護をし、子育てをし、かなり忙しい女性(母親)だったんだなぁと。そんな多忙な中でたくさんの作品を生み出し続けるだけでなく、絵本作家の著作権について意見を発するなどアクティブな女性でびっくりです。絵本というジャンルに革命を起こしたんだとようやく実感しました。

 

常設展にはいわさきちひろの絵や、当時出版された古い本が置いてあります。水彩画のあの懐かしいテイストの絵が多く飾られていました。絵本のワンシーンを切り取るように、展示された絵とセットの文章も添えられていて、いろんな絵本を少しずつアラカルトで楽しむことができます。

 

ひさの星』という作品が展示されていましたが、お話自体が悲しすぎる上に絵が切なさを倍増させていて、「大人が読んでもつらいぞ」と思わず言いたくなるほど印象的でした。不思議なことに、悲しいけど美しいんだよね。だから印象に残るのかな。美談ではないはずなんだけど(このあたりの感想はたぶん人によりますが)。

 

別の展示室にはいわさきちひろのアトリエが再現されていました。本棚にぎっしり詰まったアンデルセンや歴史の本なども当時のテイスト。机の上には水彩絵の具やキャンバスなど仕事道具。応接用のソファがモダンなデザインで素敵でした。ドアの近くの棚には小さな民芸品が飾られていて、少しのスペースでも彩ろうとするかわいらしさが伝わってくる。

 

ブログを書くにあたりHPを見直したところ、しっかり情報量のあるHPで「おお!」と思いました。作品一覧ページで絵をたくさん見ることができます。自分の人生でのいわさきちひろとの出会いが思い出せない…気づけば知っていた、という感じです。それだけ絵が印象的なんだな。あのつぶらな瞳が特に心に残ります。漫画みたいな顔ではなく、でも子供らしさもあって、まっすぐこちらを見つめてくる目。絵自体は滲んだ水彩で「ふんわり」していますが、目はしっかりしてるなぁと思います。

 

姪っ子ができてから、たまに絵本をあげています。でも自分のために絵本を読んだのはとても久しぶりでした。絵本というジャンルのアートをしっかり堪能したのも初めて。 ファミリーもたくさん訪れていて、いつも行く美術館とは異なる楽しみ方ができました。また行きたいなと思える素敵な空間。実際に作者が暮らしていた土地、というのも鑑賞の仕方、作品の感じ方に少なからず影響を与えているように感じます。感情移入しやすいというか。

 

大人になった自分のために、絵本を買ってみようか。