遠浅の好奇心

海・湖などで、岸から遠く沖の方まで水が浅いこと。そういう所。

ありそうな世界を創って遊ぼう〜ショーン・タンの世界展@ちひろ美術館〜

ちひろ美術館で、「ショーン・タンの世界展」を見てきました(と言うのは2回目)。

www.artkarte.art

 

1回目は、ちひろ美術館について語って終了してしまいました。

habitaso.hatenablog.com

 

今回はようやくショーンさんの展示についてです。以下、HPより引用。

ショーン・タンは、約5年におよぶ制作期間を経て、2006年に移民をテーマにしたグラフィック・ノベル『アライバル』を発表しました。テキストを使わずに緻密にイメージを組み立ててつくり上げたこの物語は、すぐさま国境を越えて世界中の人々を驚かせました。本展は、タンの全面的な協力のもとに開催される日本初の大規模な個展です。彼が最初に絵と文を手がけた絵本『ロスト・シング』から最新作までの原画と習作のほか、スケッチ、映像作品、変な生き物をかたどった立体作品も含め約130点の作品を展示し、彼がつくる奇妙で懐かしい世界をたっぷり紹介します。

 

ショーンさんのことは知りませんでした。絵本もそんなに読まないし。ほぼ日で毎日更新される糸井重里さんのコラムで「『ショーン・タンの世界展』がすごくよかった」と書いてあって、それで知りました。ほぼ日には弱いんです笑

それで公式HPを見てみたら、不思議な鉛筆モノクロの世界。私の好きなタイプ。自分はヒエロニムス・ボスのシュールで不思議な絵が好きなのですが、それに近いものを感じてさらに興味がわきました。

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企画展のHPとは別に、ちひろ美術館のHP内にも紹介ページがあります。こちらも具体的なエピソードや説明が詳しいので読んでみるとよいかと。

chihiro.jp

 

美術館の2F、1Fの部屋1つずつに絵の原画、実際の絵本、映像作品など幅広く展示。狭いながらもしっかり楽しめます。

 

まず2Fから。最新作『内なる町から来た話』の大きな絵。透明な魚を抱える少年の絵が綺麗だった。作者の飼っているインコ(オウム?)の大きな頭がダイナミックな絵も。どれもビビットではなく優しい色合いです。

見たことのない街、だけどどこかにありそうな世界、そんなイメージをかきたてるように感じます。それぞれの絵の背景やコンセプト、あらすじが添えてあるので、想像が膨らんで見てて楽しかった。説明抜きに素敵な絵ももちろんあるけど、作り込んだ設定を聞いた上でイメージする楽しみ方もワクワクするよね。

 

作者が世界各地を描いた小さな油絵も多数。油絵って古い町並みを描くイメージが強いので、その辺にありそうなスーパーやお店、カフェが油絵のタッチで描いてあるのが新鮮でした。そうよね、油絵=古いってわけじゃないよね、と再発見。

 

あとは『アライバル』の原画やスケッチなど。絵本自体読んだことはないですが、展示される原画を見るだけで「いい!」と感じる。漫画のようなコマ割りで少しずつ話が進んでいく、感情が動いていく。セリフが一切無いのにそれが伝わる。移民がテーマなので、登場人物の辛い境遇も伝わってくる。だけど、不思議な乗り物や生き物がたくさん出てくる世界観、急に主人公の暮らしに入り込んでくる愛らしい生き物、そのおかげか希望を感じることができます。でも、人間を超える圧倒的な権力も描かれて恐怖をかきたてる。

作品を作る過程がユニークでした。自分の写真を撮って構図を考え、その写真に線を入れて書き換える、というリアルと想像が入り混じった作り方。移民の実際の写真をコラージュして絵を作り、リアルな材料から想像を作る。全くゼロからの想像ではなく、ある程度事実を入れ込むことで、感情移入や想像がしやすくなるのかなと思いました。

 

続いて1F。

ショーンさんのアトリエが再現されています。落書きのようなメモが目の前の壁にたくさん貼ってある。座ってすぐに目のつくところに、思いついたイメージが溢れていかないように、雑だけど大事にキープされているように感じました。雑然としてるけど楽しさと愛が伝わる。

 

ほか、『ロスト・シング』のアニメを上映。原画や立体作品も展示。あらすじは、浜辺で迷子になっている変なロボのような生き物と主人公が仲良くなり、その迷子をどうしよう…という展開。この「迷子」が見た目怪しいんだけど動きが可愛らしい!アニメは絵本を元に作成されたのですが、絵本の世界観そのままに不思議な生き物や町並みが創られていて見入ってしまった。

 

『エリック』『遠い町から来た話』など他にも多くの作品が。原画だけでなく絵本そのものも読めるように置いてあります。原画で気になった『セミ』は思わず絵本を読んでしまった。サラリーマンのセミの物語。セミがスーツ着て働いてるんです。主人公のセミは立体作品として展示されていて、立ち姿が切なさ満載で「うあああ仕事頑張ってるのかお前は!」と励ましたくなりました。絵本も途中読んでて辛かった。結果良い方向に行きましたが(感想はたぶん人それぞれ)。

 

全体的にとても楽しかったです。わくわくした。絵本は大人になって読む機会が減りましたが、大人でも全然楽しめる。ここではないどこかに思いを馳せるワクワク感は、いくつになってもできるんだ。ということを思い出させてくれました。

と同時に、「こうだったらいいのに」とかの想像を楽しく膨らませて誰かに話す、ということを、大人ももっと遊びとしてやったらいいのに、と思いました。子供ってそういうことするじゃない。大人になったら、そういうのはクリエイターや作家のすることと思ってやらなくなっているのでは。イメージや想像でもっと遊ぼうよ。子供よりたくさん物事を知っている大人だからこそ、創り出せる世界はもっと広がっているはず。